「今どこ」


よーい、どん!


そう言い残して、妻は全力で走っていった。
僕の右手のマイバッグには、今晩の鍋の材料の他に、1.5リットルのコーラ4本が入っている。

妻の背中がどんどん小さくなっていく。
立ち止まりも振り向きもしない。
そしてほぼ点になってしまった妻が、右に曲がった。

僕はゆっくりと歩く。
マイバッグを右手に左手に持ち替えながら、ゆっくりと歩く。
ゆっくりとその曲がり角に近づく。
期待を胸に。
曲がったところで妻が待っているんじゃないかという、淡い、淡い、淡い、淡い、淡い、淡い期待を胸に。

いないよ。
絶対にいないよ。
わかってる。
でも僕は、家までにある曲がり角にさしかかるたびに、この期待を胸にするだろう。
どんどん淡さは増していくだろうけど。
淡すぎて期待しているのか自分でもよくわからなくなるんだろうけど。
でも、僕は曲がったところに妻の姿を探す。
きっと。

いないよ。
絶対にいないけどね。



携帯が鳴る。
マイバッグを左手に持ち替えて、ズボンの右ポケットから携帯を取り出す。
妻からメール。



『ゴールどこ?』






家じゃないの?!

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