「右腕GO」

 二度とすまいと誓ったのに、右腕をぶっ放してしまった。
 わたしは軽トラックの荷台に乗っていた。ヒッチハイクで西へ向かうつもりだった。天気は悪くなかったから風が心地よかった。おまけに荷台には女が何人かいた。美しい女だって乗っている。

 決して性欲に負けたわけではない。現に、ぶっ放す前から、すでに荷台の上でわたしは女たちの体をときどきまさぐっていたし、女たちもわたしの体をまさぐった。それはただの戯れで、つばぜり合いのようなものだ。車は西へ向かう。運転手はわたしたちのことにさして注意を向けない。
 わたしたちはぽつぽつと喋りながら、ときどき、誰かの体をもんだり触ったりしていた。女たちはときどき、鼻にかかった声で、つん、とか、らん、とかあえいだ。わたしもぴゅーぴゅー、ひゃあああ、などと言っていた。
 そこで調子に乗ったのが悪かった。多分、健康についての話をしていたのだが、その流れで、右腕を飛ばしたことがあると口を滑らせてしまった。女たちが興味を持ったので、わたしは気が大きくなった。女に関心を寄せられると、ついつい調子に乗ってしまう。見せて見せて。右腕飛ぶとこ見せて。女たちはわたしの体をいじくりながら頼む。わたしは渋ってはいたが、そんなのはただのポーズだった。すでに右腕をもぞもぞさせつつあった。
 女たちはわたしに寄り添って、右腕飛ばして、ぶっ飛ばしちゃって、などとささやきかけた。耳の裏がぞくぞくとした。トラックは西へ向かっている。進行方向とは逆を向いて荷台の上に座っているため、わたしたちは常に太陽よりも先んじていた。オレンジ色にどろどろと溶けていく太陽を見ながら、わたしは右腕をもぞもぞさせて、発射準備に取りかかった。

 いよいよ右腕を飛ばそうとしたとき、トラックはトンネルに入った。一瞬にして視界が暗くなる。オレンジ色の太陽の明りが半円の外へと逃げるように消えていく。
わたしはなるべくならトンネルの中では右腕をぶっ放したくはなかったのだが、すでに兆候は見えつつあった。右腕がぷるぷると小さく動き始めた。わたしはもはやそれを止められない。女たちは薄暗闇の中、ねえねえ、と甘えてくる。わたしの右腕が熱を帯びる。ふしゅうふしゅうと音を立てる。女の一人がわたしの乳首を服の上から撫でる。わたしはすでに後悔している。どうして女たちに乗せられてしまったんだ。よく見たら、こいつら全然きれいじゃない。

 右腕が飛ぶ瞬間、わたしはちょっと涙ぐんだ。いつも右腕が飛ぶ刹那、感情をおきざりにして、わたしは泣いてしまう。勢いよく右腕が飛んでいく。女たちの反応はそれぞれで、興奮しているものもいれば、思ったほどではないと興ざめしているものだっている。わたしは右腕をぶっ放した余韻でしばらく体に力が入らない。

 遠くで右腕が落ちた音が聞こえた気がするが、トラックのエンジン音ではっきりとしない。おまけにトンネルの中は薄暗いので、どこまで飛んで行ったのかよくわからない。わたしたちは西へ向かっている。すぐにでも右腕を拾いに行かなくてはいけないのだが、そのタイミングがつかめない。先に伸ばすほど、面倒なことになる。トラックからはもちろん降りなくてはならない。
 女たちはまだきゃあきゃあ騒いでいる。中には眠っている女もいる。わたしの体をいじくる女もいる。しかしわたしは右腕を取りに行かなくてはいけない。持続する限り、女たちからちやほやされていたいが、そのつけは確実に回ってくる。トンネルはまだ続いている。右腕が切り離された部分から、ぴゅううううう、と変な音が聞こえてくる。それがトンネルの中で反響する。女のうちの誰かが、このトンネル、世界で三番目に長いみたいよ、と呟くが、その声は少しも響かない。

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